父が教えてくれたこと
あの日、火葬場で。
父との最後の別れの部屋で聞いた「ワンダーフォーゲルの歌」
『霧のかなたにカッコウ鳴いて 今日もお山は日本晴れ』
静寂で、石造りのひどくヒンヤリしたその空間に、明るく大きな合唱が響き、
棺に寄り添い父の頬をなで「お父さん、よかったね、よかったね」と小さく泣く母。
人生の最後に、
人生を共に存分に楽しんだ仲間たちから、
かつて何度も口ずさみ親しんだ歌で見送られる父。
送り出してくれる仲間の声は力強く、温かく、メロディは陽気。
大学時代からずっと活動を共にしてきたワンダーフォーゲル部の仲間に、荼毘にふすまで立ち会ってもらい、
最後の最後に合唱で見送られる。
それが、父がこの世の姿でいた最後の光景。
火葬場の係りの人が小さな声で静かに
「故人と最後のお別れです」
と促し、涙ながらに見送るのとはまったく違った父の最後。
この時ほど父を幸せな人だと思ったことはなく、
父の人生が初めて羨ましかった…。
父を亡くした悲しみの感情がコントロールできず、葬儀の間じゅう泣き崩れていたのに、
この瞬間から涙が出なくなったのを鮮明に覚えている。
オットと火葬場を後にした時、ようやく出た言葉が
「かなわない」
だった。
ずっとさえないと思ってきた父の人生が、とてつもなく輝いて見え、
70歳を超えても大好きな仲間に見送られる人生に圧倒され、
言葉に表しようのない感動と、
自分の人生に置き換えた時の「焦り」に似た不思議な感情で、
ただただ空を見上げるしかなく。
毎年、命日の4月になると、意識的にこの日のことを思い出すようにしています。
忘れようもないんだけど、
忘れてしまうときもあり、
一周忌に仲間が綴ってくれた追悼文集を開いて、少しだけ自分と向き合う時間を持ちたいと思うのです。
大切な人を大事にできているか
好きなことを一生懸命やれているか
父が教えてくれたこと。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。