術後の合併症あらわる。最初の症状は、飲み込めない。

HCUに移って数時間、オットは相変わらず激しい頭痛で苦しみ、そばを離れることが出来なかった。

術後の傷口からの出血からか、頭に巻いた包帯の一部に血液が浸みるのが気になって交換してもらったり

ナースステーションに人影が見えると、頭痛のことを訴えてみたり

黙ってオットを見守っているだけでは落ち着かなくて

術後の苦痛に耐えているオットに代わり、思いつく限りのヘルプをする。

 

面会時間の20時はとっくに過ぎていた。

 

自宅に留守番させているワンズが気になった。朝ごはんをあげたきりで空腹に違いない。

辛そうにしているオットを看ていてあげたかったけど、ひとまず自宅に帰ると告げてHCUを出た。

 

21時をまわっていた。

自宅までの30分ほどの距離が遠く感じる。

「パパが大変なの。お願いだから、いい子にして留守番していてね」

と、ワンズにそそくさと夕飯を食べさせ、トイレの始末と新鮮な水をたっぷり用意して、再び病院へ。

このまま一晩オットをひとりで頑張らせるわけにはいかず、何より状態が想定外で心配で仕方なかった。

 

こんなに苦しむなんて聞いてないよーーーーー!

 

オットも私も、術後の経過をもっと甘く見積もっていた。

術後の合併症として「頭痛」「飲み込みにくさ」「難聴」があるとは聞いていたものの、そんなに「重い」とは想像していなかった。

なぜなら、主治医の術前の説明のトーンはきわめて軽く、

「術後、経過観察で1~2週間の入院は必要だけど、することないから暇つぶしのビデオでももってくるといいよ(笑)」

なんて話を真に受けて、私たちは「楽な入院生活」のイメージから本当にDVDを何枚も持ち込んでいた。

 

ノーテンキ、過ぎた。

 

もっと慎重に考えれば、「楽」なわけなどないと分かるのに。

今回は顔面けいれんの手術で「命にかかわる」ような重い手術ではないけれど、まぎれもなく「開頭手術」なのだ。

アタマに500円玉ほどの穴をあけて手術をするのだ。

「痛くて当然、辛くて普通、オオゴトなのだ!」

となぜ想像できなかったのだろう。

 

そんなことを考えながら急いでHCUに戻ると、オットは少し落ち着いたようで眠っていた。

ホッとして声をかけると「ノドが乾いた」と言う。

オットは朝から水分も摂れていない。牛乳もむせかえって一口も飲めなかった。

乾燥した病院の中ではそうでなくともノドは渇く。

点滴で必要水分は投与されているから脱水にはならないだろうけど、せめてひとくち水を飲ませてあげたかった。

でも飲み込みにくさが回復するまでのガマン、とオットと自分に言いきかせる。

 

明日になれば飲み込めるようになるだろう、今晩だけのガマンと、何の疑いも持たず。

オットがたった一滴の水を飲めるようになるのに、これから20日もかかるとは思いもよらなかった手術当日の夜だった。

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